大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成12年(行ケ)145号 判決 2000年12月25日

原告

株式会社エフシーエム

(旧商号)

有限会社エフシーエム

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁理士

高田修治

小山義之

被告

特許庁長官【B】

指定代理人

【C】

【D】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告

特許庁が平成5年審判第7268号事件について平成12年3月13日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告(平成8年11月1日の組織変更前は「有限会社エフシーエム」)は、指定商品を商標法施行令別表(平成3年政令第299号による改正前のもの)の区分による第17類「被服、その他本類に属する商品」とし、「CHARLES POLOCLUB」の欧文字と「チャールスポロクラブ」の片仮名文字を上下2段に書して成る商標(以下「本願商標」という。)について、平成3年7月10日に商標登録出願(商願平3-73268号)をしたが、平成5年2月24日に拒絶査定を受け、同年4月12日、これに対する不服の審判を請求した。

特許庁は、同請求を平成5年審判第7268号事件として審理した上、平成12年3月13日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年4月6日、原告に送達された。

2  審決の理由

審決は、別添審決謄本記載のとおり、本願商標をその指定商品に使用した場合に、これに接する取引者、需要者は、その構成中の「POLO」の文字部分に注目することも少なくないものと認められ、それにより周知、著名な商標「POLO」を連想、想起し、当該商品がアメリカ合衆国在住のデザイナーである【E】又は同人と組織的、経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのようにその商品の出所について混同を生ずるおそれがあるから、本願商標は、商標法4条1項15号に該当するとした。

第3原告主張の審決取消事由

審決は、本願商標について商品の出所の混同のおそれの認定判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  審決は、「POLO」商標は、【E】のデザインに係る商品であることを表示するものとして周知、著名であると認定するが、「POLO」の文字を含む商標としては、【E】以外にも日本国内で「POLO CLUB」、「BEVERLYHILLS POLO CLUB」、「WORLD POLO CHAMPIONSHIPS」等が【E】とは無関係の第三者により被服等について使用されており、取引者、需要者は、これら商標の付された商品が【E】とは別異の出所の商品であると認識し、【E】のものとは明確に区別して取引されている。そのほかにも、「POLO」の文字を含む商標が被服等を指定商品として多数登録、出願されているなどの事情に照らすと、取引者、需要者は、「POLO」の文字が商標の一部に含まれていることから直ちに、その使用に係る商品が【E】のものと認識することはない。

2  「POLO」の名称は、乗馬球技であるポロ競技を意味し、このことは、我が国においても広く知られている。ポロ競技は、我が国において、実際に競技をし、又は観戦したことのある人の数は少ないが、我が国の国民にとっては、高嶺の花のスポーツとして強い憧れの的となり、これがポロ競技の知名度を高いものとしている。また、ポロ競技の競技者が着用する衿付き半袖シャツは、古くから「ポロシャツ」と称され、本件出願当時、我が国においては、「PORO」又は「ポロ」と略称されていた。

「POLO」及び「ポロ」の語は、我が国において、被服につき自他商品の識別機能を有しない普通名称であるから、被服について使用される商標の一部に「POLO」の文字が含まれていることから直ちに、取引者、需要者が【E】に係る「POLO」商標を連想、想起することはない。我が国において、【E】が「POLO」の語を「Polo by RALPH LAUREN」などとして「RALPH LAUREN」の語と関連付けて使用しているのは、「POLO」の語に自他商品識別力を認めることができないからである。

3  「CHARLES POLOCLUB」の商標は、17世紀の英国王の名である「CHARLES」「チャールス」とポロ競技のクラブを意味する語である「POLOCLUB」「ポロクラブ」を結合した商標であり、これらの英語は、日本人にとってなじみの深い簡潔な英単語である。したがって、本願商標中の「POLO」の文字部分が独立して自他商品の識別機能を有するものではない。

第4被告の反論

1  被服を始めとするファッション関連の商品に「POLO」の文字を使用した場合には、これに接する取引者、需要者は、【E】のデザインに係る商品であると認識する。したがって、【E】以外に「POLO」の語を含む商標を使用する者が多数存在しているという実情があるとしても、我が国において「POLO」といえば、【E】がファッション関連の商品に使用する商標を連想、想起させるものであるから、取引者、需要者に商品の出所についての混同を生じさせるおそれがあるというべきである。

2  原告は、「POLO」はポロ競技を示す一般用語ないしポロシャツの略称として認識されていると主張するが、ポロ競技は、我が国において愛好者が極めて少なく、なじみの薄いスポーツである。また、仮に、「POLO」の語がポロシャツの略称であるということができるとしても、それは本願商標の指定商品中ポロシャツについては妥当しても、その他の指定商品については、十分に自他商品の識別機能を発揮するものである。

3  本願商標は、「CHARLES」「チャールス」、「POLO」「ポロ」、「CLUB」「クラブ」の各文字から成るものと容易に理解されるのであって、これが常に一体不可分のものとして理解されるべき特段の事情はない。

第5当裁判所の判断

1  商品の混同のおそれについて

(1)  乙第1~第10、第11号証の1、2、第12号証の1~5によれば、以下の事実を認めることができる。

【E】は、1939年(昭和14年)生まれのアメリカの服飾等のデザイナーであり、アメリカのファッション界で最も権威があるとされるコティ賞を1970年、1973年の2回にわたり受賞し、1974年の映画「華麗なるギャツビー」で主演した【F】の衣装デザインを担当するなどして、世界的に知られるようになった。【E】の「POLO」「ポロ」商標は、【E】のデザインに係る商品に使用されている。我が国においては、西武百貨店が、昭和52年ころから【E】のデザインに係る紳士服、婦人服、眼鏡等の輸入、販売をしており、平成元年ころには、第三者が【E】商標ないしこれに酷似した標章を付した偽ブランド商品を販売して摘発されるという事件が発生するほど、【E】商標は顧客吸引力を有していた。また、本願商標の商標登録出願前から、各種雑誌等において、【E】のデザインに係る紳士服、婦人服、眼鏡等の商品が一流ブランドないし流行ブランドとして、「ポロ」、「POLO」、「Polo」のブランド名で紹介され、一般新聞においても、「『Polo』(ポロ)の商標で知られるラルフローレンブランド」(平成元年5月19日付け朝日新聞夕刊、乙第12号証の1)などの記載が用いられるように、【E】商標は、「ポロ」、「POLO」、「Polo」の商標の名で知られ、これを付した商品もブランドとして「ポロ」、「POLO」、「Polo」と呼ばれていた。

以上の事実によれば、本願商標の商標登録出願時(平成3年7月10日)までには、【E】商標は、「ポロ」、「POLO」ないし「Polo」の商標などと呼ばれ、これを付した商品もブランドとして「ポロ」、「POLO」ないし「Polo」と呼ばれて、紳士服、婦人服、眼鏡等のファッション関係商品について【E】のデザインに係る商品に付される商標ないしそのブランドとして著名であったことが認められる。

(2)  次に、本願商標の構成について検討するに、本願商標は、「CHARLES POLOCLUB」の欧文字と「チャールスポロクラブ」の片仮名文字を上下2段に書して成るものであるところ、本願商標の欧文字は15文字、片仮名文字は10文字から成り、また、これらから生じる「チャールスポロクラブ」の称呼は8音で構成され、その外観、称呼とも、全体が一体不可分のものとはいえない。

(3)  以上の認定判断に基づいて、本願商標についての商品の出所混同のおそれにつき判断する。上記「POLO」商標の著名性に照らすと、本願商標が、その指定商品である被服等のファッション関連商品に使用された場合、これに接した取引者、需要者は、その「POLO」の文字部分に着目して、【E】の著名な「POLO」商標を想起、連想し、【E】又は同人と組織的、経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。

(4)  乙第12号証の1~5及び弁論の全趣旨によれば、新聞において、「ポロ競技のマークで知られる米国のファッションブランド『POLO(ポロ)』の製品に見せかけた眼鏡枠」の販売行為の摘発記事(平成5年10月13日付け読売新聞大阪版朝刊、乙第12号証の3)、「米国ブランド『ポロ』などのマークが入った偽物のセーターやポロシャツ」の販売目的所持行為についての有罪判決の記事(平成11年6月8日付け朝日新聞夕刊、乙第12号証の4)、「米国の衣料品ブランド『ポロ・ラルフローレン』の偽物セーター」の販売行為の摘発記事(平成11年9月9日付け日本経済新聞朝刊、乙第12号証の5)などが掲載されたことが認められ、以上を総合すれば、前記1の認定に係る商品の出所混同のおそれは、審決時においてもなお継続していたものと認めることができる。

2  原告の主張について

(1)  原告は、【E】の「POLO」商標以外にも「POLO」の語を含む商標は多数存在し、これらは【E】とは別のブランドとして消費者に認識されている旨主張する。

確かに、甲第16~第22号証(枝番を含む。)によれば、我が国において、「POLO」又は「ポロ」の文字を含む商標が多数存在し、登録されているものも少なくないことが認められるが、本願商標と関係のない国内ポロブランドが多数存在しているとしても、本願商標についての商品の出所混同のおそれとは関係がなく、上記商標が登録されていても、本願商標とは別の商標に関するものにすぎない。また、本件全証拠に照らしても、本願商標がその商標登録出願当時、取引者、需要者にどの程度知られていたかは不明である。したがって、本願商標についての商品の出所混同のおそれが否定されるものではない。

(2)  「POLO」の語は、乗馬球技であるポロ競技を示すものであるが、前示のとおり、【E】の「POLO」商標が【E】のデザインに係るファッション関連商品に付される商標としてその取引者、需要者に著名であるから、本願商標の指定商品で本願商標を付されたものに接した取引者、需要者は、本願商標の「POLO」の文字部分に注目するのであって、このことは、「POLO」がポロ競技を示す一般用語であることと矛盾するものではない。

原告は、「POLO」はポロシャツの略称として普通に用いられているとも主張するが、本願商標がポロシャツ以外の指定商品に使用された場合に、取引者、需要者が「POLO」の語をポロシャツを示すものとして認識することはないというべきであるから、この点についての原告の主張も理由がない。

(3)  原告は、さらに、本願商標が17世紀の英国王の名とポロ競技のクラブ名を結合した商標であると主張する。しかしながら、本願商標がそのような語を結合したものであっても、【E】の著名な商標である「POLO」を含んでおり、また、本願商標の欧文字部分は、「CHARLES」、「POLO」及び「CLUB」の各部分から成ることは容易に理解され、上記欧文字部分は全体で15文字から成り、しかも、「CHARLES」の右側に1文字分の空白があるから、全体が一体不可分のものとして理解されるものではない。したがって、本願商標が17世紀の英国王の名とポロ競技のクラブ名を結合した商標であるということは、本願商標がその指定商品である被服等のファッション関連商品に使用された場合、これに接した取引者、需要者がその「POLO」の文字部分に着目して【E】の著名な「POLO」商標を想起、連想するとの上記認定を左右するものではない。

3  以上によれば、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 長沢幸男 裁判官 宮坂昌利)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例